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Hiroki Totori

戸取大樹・インラインスケート(スピード競技)

世界最高峰の「NSC」に初の日本人として参戦。
現在、日本ランキング5位のトップスケーター。
2007年〜2018年は12年連続日本代表入りを果たす。
常にチャレンジを続ける彼の姿は日本のスケート界に大きな影響を与え続ける。
誰もが認める彼のスポーツマンシップは世界でも評価されている。
まさにアスリートの鏡。

お金事情 - 競技活動費ってどれくらいかかるの?

工夫次第で
リーズナブル

―― スケート競技にもいろいろ種類があるそうですが、戸取選手のインラインスケート(スピード競技)はどれくらいの費用がかかるんでしょうか?

戸取大樹(以下、戸取) 海外遠征も含めて年間200〜300万円の間だと思います。
1回の海外遠征にかかる費用が、だいたい15〜20万円。年に4・5回行くとすると100万円。
それに加えて連盟関係の大会(世界選手権やアジア選手権)が同じ年に重なってくるとプラス100万円前後になります。
あとは機材なんですけど、競技に必要な物って靴とフレームくらいなので、実は機材自体の費用はそこまでかからないんですよね。靴はカスタムだと20万円。フレームは数万円。その他、ヘルメットなどの細かい用具は揃えても30万円以内ですね。それぞれ毎年買い替えるものではなく、ペースとしては3年に1回くらいなので負担はそこまで大きくないのかなと思います。
あとは消耗品のウイールですね。1本2万円前後で、出場する大会数にもよるんですが年間5本〜10本。多いときだと15本くらい下ろします。
その他、国内大会の遠征費。国内といっても東京、大阪、岐阜、長野など、結局スケートができる環境は場所的にも限られてしまうので、本州から出ることはほぼなく、エントリー費や宿泊費含めても年間300万円は超えないかなあ。比較的リーズナブルなスポーツです(笑)

―― 確かに今まで取材したアスリートの中だと割とリーズナブルな方かもしれない!!

戸取 モータースポーツとかと比べると桁違いですよね。つい先日、テニス選手と競技活動費について話したときもそう感じました。スケート競技はマーケットも小さいので、色んな面で始めやすいスポーツかも。

―― リーズナブルに続けられる理由として、競技団体のサポートがしっかりしているとか??

戸取 いや、僕の競技はローラースポーツ連盟の統括に入るんですが、ぶっちゃけあまり強力な団体ではなく、アスリートへのサポートはほとんど無いと言って良いかなと・・・。
だからどうこうという訳ではなく、現実として協会自体の自立や大会運営そのもので精いっぱいというところです。

―― なるほど。特にマイナースポーツは余裕がない団体も少なくないかもしれませんね。先程の話に戻りますが、総合的にみてもやはり遠征に多くの費用がかかっていますが、遠征の時は何泊くらいするんですか?国内だと当日入り?

戸取 リンクや路面に慣れるために、なるべく早めに現地に入れるようにしています。世界選手権や日本代表の大会などは1週間前くらいから現地入りして公式練習に参加したり。
南米の国、コロンビアなど組織立ってガチガチにやっているところの選手たちは、1か月前に入ったりもします。

―― 基本1週間前かぁ・・・。あれ?でも戸取選手って、長期で海外遠征に行っているイメージ。特にヨーロッパなんかは、より早めに現地入りして環境に慣れるようにしているんですか?

戸取 ヨーロッパでは競技が盛んなので、ほぼ毎週どこかしらでレースをやっていて、1回の遠征で2〜3大会回れるんです。去年は、パリ・プラハ・ベルリンを回るスケジュールでした。ちょっと開催国の事情によりプラハは中止になってしまったのですが、元々は3レース出られる予定だったので滞在は2週間ちょっとですね。

―― なるほど!現地でいくつかレースを回っているんですね!滞在費は嵩みそうですが・・・

戸取 いや、僕は基本的にはスケート仲間の友達のところ(家)に行くので、宿泊とかレンタカー費は正直かからないんですよね。なんかスケーターって異常に面倒見が良い人ばかりで、大体みんな僕より年下なんですけど何かと面倒見てくれます。「マイナースポーツ」の共通意識があるのか世界中で連帯感があって、助け合っている部分は多いのかなと感じます。困っていたらどこかしらから情報をもらえたり、本当に優しい世界です。

―― 素敵!もちろん戸取選手の「人徳」だと思いますが、競技を通じて世界中で人の温かさを感じられるって良いですね。

お金事情 - お金がかかる海外遠征、それでも行き続ける理由は?

遊びの
延長線上に

―― さて、スケート競技がわりとリーズナブルにできるスポーツであるということを教えていただきましたが、金銭面以外に戸取選手が問題視していることなどはありますか?

戸取 練習環境がもっと充実したらいいなと思っています。
現在、専用の競技場は都内に一か所しかないんですよね。僕の場合、自宅から専用競技場まで1時間半くらいかかってしまうので、練習といってもなかなか簡単にはいかないです。
また、一般の公園なども禁止されているところが多く、インラインスケート・ローラースケートは「危険な遊具」として門前払いです。そういった点では競技の認知という部分も課題にはなりますね。

―― 家から練習場まで1時間半かあ・・・。そうなると、競技環境が整っていたりスポーツが盛んな国への移住も視野に入れたくなりそうですね。

戸取 そうですね。日本と比べると海外はものすごく競技環境が良いので本当に住みたいくらいです。特にヨーロッパは最高ですね。初めて現地に行ったとき、人々の寛大なスポーツ観に感動したのを覚えています。

―― うんうん。戸取選手を見ていると、海外へ行く価値や魅力がきっとあるんだろうなと感じます。

戸取 レベルの高い選手たちと思う存分練習ができるし、各国の選手たちのスケートに対する想いや価値観などを間近で感じられる刺激的な環境です。それが僕のスケートにも大きく影響しますし。文化が違えば、視点や考え方ももちろん異なって、日本ではどうしても学べないことも数多くあります。だから色んな意味で競技を追及できる海外、特にヨーロッパに魅力を感じますね。

―― ちなみに日本と海外、スポーツ文化の大きな違いはどこにあると思いますか?

戸取 みんなが純粋にスポーツを楽しんでやっているところですかね。競技者だけでなく、一般の人々もそこら中で遊びとしてスケートを日常的に。オランダ遠征の時に、夕方のアイススケート場に行ったら、夏場だったんですけど結構込み合っていて、そこでは小学生の子供から70〜80代くらいのおじいちゃん、おばあちゃんまでスケートを楽しんでいたんです。その瞬間「なんだこの世界は!日本と全然違うわ!」って衝撃を受けたのを覚えています。
今はどうか分かりませんが、日本ってなんとなく厳しい練習を経て″とか苦しんだ者が勝つ″みたいな雰囲気がある気がして。それが悪いという意味ではなく、海外に行って初めて「あ、こんなに自由なんだ!」っていう感動が大きかったんですよね。別にスポーツが上手じゃなくていいし、やりたければ誰でも、何歳になってもできるし。そういう選択の自由がいいなって思います。単純に、好きなことに対してとにかく真面目!みたいなスタンスの海外選手たちに交じってスケートをやっている方が、僕はしっくりくるみたいです。

―― それは本当に現地に行かないと感じることのできない美学ですよね。スポーツに対する価値観の根本的な違いというか。

戸取 そうですね。夕方早い時間から大人たちが楽しめるような働き方の環境であったり、高齢者もスポーツを楽しめるくらい健康的な文化であったり。とにかく社会全体が日本とは全然違います。
街中に自転車専用のレーンがあるのも凄くいいなあと感じたし・・・。
そういう経験を経て、もっともっとヨーロッパを見てみたい、そして世界を知りたいと思いました。ヨーロッパ以外にも、アメリカや韓国、台湾など色んな国に行って各国の独自の強みや競技団体の仕組み・育成を学んだりしています。それぞれの国でのスケートの楽しみ方ってやっぱり全然違いますし、日本にいるより何十倍も収穫があると思っているので、まだまだ見ていきたいです。
仕事さえあれば、やっぱり向こうに住んでみたいですね。

―― なんだか、話を聞いているだけでワクワクしちゃう!

お金事情 - スポンサー、支援者への想い

評価を
受け止めたい

―― 戸取選手には様々なスポンサー企業がついていますが、それぞれどのようにお付き合いされているのでしょうか。SNSでの商品紹介も普段からしっかりされていますよね。

戸取 SNSは趣味みたいな感じで、見ている人が飽きないようにイラストを加えたりして楽しんでやっています。付き合い方としては、本来であればちゃんと頻繁にスポンサーさんのところに会いに行ったり、顔を出したりしなければいけないと思っているのですが、僕もなかなか出来ていなくて反省しています。
ただ、メールなどの連絡に関しては、どんな細かいやり取りでも必ず返信するようにしていて、繋がりは大切にしています。スポンサーとアスリートの付き合いというよりは、普通に社会人としてのお付き合い。取引先の感覚とかとあまり変わらないというか。

―― なるほど。対等な立場でやり取りしているというイメージでしょうか。

戸取 対等な立場というとちょっと語弊がありますが、何かを与えてもらっているということは、それなりに評価してもらっているという考え方でやっています。例えば物品提供だったら「もらっちゃ悪いんじゃないかな」っていう発想よりは、ちゃんと提供を受けて、商品を使って、世に出していくっていう方が企業にとっても良いと思いますし、提供する意味があるというか。
きっと相手もそういうことを求めてくれているんだと思います。

―― その通りだと思います。一方でCF(クラウドファンディング)はまた違った感覚というか、特殊な支援者との関係性かもしれませんが、どのようにお考えですか。

戸取 CFに関しては、日本の社会状況によってまだまだ簡単ではないという感覚です。
起案者の努力次第で成立・不成立を大きく左右することも実感しています。
寄付文化が盛んなアメリカなんかは、周りの「応援しよう」っていう空気感がしっかりしている環境もあり、支援の呼びかけ含めCFは日本よりも断然やりやすいと思います。
日本だとアスリート側も、直接誰かに支援をお願いしづらい、ガツガツPRするのはちょっと・・・みたいな、気恥ずかしさというか、奥ゆかしさ的なところが影響していたり。ただ、徐々にCFが認知されるようになったりしているので、日本もこれからそういう世の中に少しずつシフトいくのかなと期待しています。

―― やはりCFも国や文化によって、大きく変わってきますね。ところで、戸取選手のリターンはとても豪華で気持ちがこもっていると好評ですね!

戸取 そうなんですか!?いや、僕は逆に他の選手たちのリターンめっちゃ豪華だなあと思っていました。ボディボードの大原選手とか。

―― 心のこもった手作り系のお返しもの(自分でデザインしたステッカーなど)が多い気がします。

戸取 そうですね、あんまりお金をかけられないっていうのもあるんですが、自分で出来るもので可能な範囲でという感じです。もともと何か作ったりするのが好きなので、そういうところでお返しできればなあと。あと毎回遠征先のお土産っていうプランも設定しているんですけど、お土産を選んでいると、あれもあげたい!これもあげたい!って凄く悩んじゃいます。なんなら楽しすぎて、大会のこと忘れちゃう。(笑) 支援していただいているので、出来るだけ金額は抑えつつも喜んでもらえそうな物をチョイスするように心がけています。

―― 支援者やファンからしたら、すごく嬉しいと思いますよ!

戸取大樹の素顔 - 競技人生とジュニア世代に伝えたい事

満足するまで

―― 戸取選手のアスリート人生、山あり谷ありだったと思います。普段からとてもポジティブに競技に取り組まれている印象ですが、落ち込んだりすることはあるんですか??

戸取 僕、わりとアップダウンが激しくて毎月1回はどん底。なんで競技をやってるんだろう?と思うくらい、かなり落ち込みます。

―― えっ!それは意外な一面。よく挫けずに続けていますね!

戸取 まあ5日くらい経ったらケロッと忘れて、天国にいるかの如くまたスケートを楽しんでいるんですけどね。(笑) 競技を続けているのは、やっぱり満足できていないからだと思います。
きっかけとなったのは、大学卒業前のアジア選手権の選考会。当時の自分のレベルとしては、ギリギリ日本代表に入れるかどうかくらいで、ちょっと希望があったんですよね。実際のレースでも4番くらいで滑っていたんですが、あと一歩というところで転倒してしまい代表入りを逃しまして。
結局、大学卒業のタイミングということで、そのまま就職をして一時期スケートからは離れてしまったんですが、やっぱりずっと心のどこかで満足できなかったっていう思いが強くあって、競技を再開するため退職を決意しました。

―― すごい決断!戸取選手の就職先、結構な大手でしたよね。それでもスケートを選んだんですね。

戸取 はい。そこからは、やりたい事を納得いくまでやろうっていうメンタルで続けています。
結局スケートを再開した後に、先ほど話したような海外のスケート事情も知ることができたりして本当に良かったですし、今もなお夢は広がっています。僕自身も一時期そうでしたが、やっぱり途中で競技を辞めてしまう選手がほとんどです。ジュニアのトップの子たちも高校・大学卒業のタイミングで半分くらいがいなくなっちゃいますし、ちょっと勿体ないなって。でも究極的には本人がスケートをやりたいかどうかになってしまうんですよね。本当にスケートがしたかったら、なんとか環境を自分でつくるだろうし。
やっぱり日本の社会状況だと選択肢は限られてしまうのかな。楽しみ方を見てきた僕だからこそ、もっともっと競技の良さや面白さを若い世代に伝えられたらいいなと思いますし、実際にジュニアの子たちを海外に誘ったりもしています。
といっても、飛行機に一緒に乗るくらいですけど・・・。(笑)

―― 戸取選手が子どもたちと飛行機に!喋っているところすら、あまり見たことない!!

戸取 喋っているところを見たことがない・・・それは語弊がある気がする・・・。(笑)
僕は面倒見が良くないというか、マルチタスクがあまり得意じゃないんですけど、一応ジュニアの子たちにスケートを教えたりはしています。

―― すみません、ちょっと言い方を間違えました。(笑)ジュニアの子たちとの関わりもあるんですね!

戸取 子どもが苦手とかじゃなくて、教え始めたらもう楽しくなっちゃって、それだけに集中してしまうっていう感じです。まあでも確かに、距離の取り方に関しては普通の人よりは意識しているかも。仲良くならないっていう訳ではなく、遠すぎず近すぎず を保つようにしています。親しき中にも礼儀ありじゃないですけど、子どもたちにも人との距離をちゃんとコントロールできるようになってほしくて。
僕自身がそういう人でありたいし、そういう人が好き。依存しあわない関係性であるほど、一緒に海外遠征に行けたり、より長く時間を共にできる気がします。

―― わあ〜なんだか、すごく戸取選手らしいお話を聞けた気がします!!ありがとうございました!

おまけ

今、スケートして
なかったら何してた?

絵やイラストなどの
デザイン系の仕事

実際のデザイン →

試合前の願掛けはある?

願掛けとは違うかもしれ
ませんが、前の晩か、当日の
朝にその日取る行動をイメージ
して、それを一つずつこなし
ていきます。車に乗って、
ラジオをかけて、ここで挨拶
・・・など

海外のオススメご飯は?

台湾の定食屋さんメニューは
美味い!牛肉飯にうろうふぁんがおすすめ。
豚の角煮みないなんですけど、
濃厚な甘辛タレが絶品!
あと、普通のコンビニの
排骨弁当も捨てがたい。

モチベーションを
上げる方法は?

Youtubeなどで
海外のレースの
動画を見る!

好きな言葉は?

親しき中にも
    礼儀あり

気になる
スポーツはある?

自転車競技!
生で見てみたい!

好きな女性のタイプは?

・・・僕にあまり
     興味のない人。
 自立している人・・

いや、自分勝手な人と言った方が
    イメージ的に近いかな・・・

いや声小さッ!!笑

休日は何してるの?

読書、絵やイラストを
描く、お菓子作り

戸取選手の宝物を教えて!

無くしてしまうととても
悲しいので、物としての
宝物はないです。
大事にしているのは、
自分の状態とか作り上げて
きたことです。

インタビュアー紹介

関口 萌仁香 (せきぐち もにか)

ALLEZ!JAPAN 広報・リエゾン担当 & Connect マネージャー

日本初のアスリート専門クラウドファンディング「ALLEZ!JAPAN」の立ち上げメンバー。
CFプロジェクトはこれまでに100件を超え、2018年は100%の案件を成立に導く。

企業によるFacebookやtwitterなどのビジネス利用が一般的ではなかった2012年から、SNSの情報拡散力およびコミュニケーションツールとしての潜在力に注目し、試行錯誤を重ねながら「SNS広報」のノウハウを独自に蓄積してきました。彼女の手法は、いまでは様々な分野で模倣され・お手本となっています。